NOTES

どうして涙がでちゃうんだろう。

菅平高原に2泊3日の合宿に行ってきました。高校ラグビー部のヘッドコーチをやっていたとき以来だから、8年ぶりでしょうか。

小学生のタッチラグビーアカデミーのアシスタントコーチをやらせてもらっている立場での参加だったのですが、いつも平日に一緒に練習している夏休み中のこどもたちと初めて合宿に行って、ほんとうに、ほんとうに多くのことを学ばせてもらいました。

コーチとしての学びは他のコラムで書こうと思うのですが、今回お世話になった宿舎の女将さんについて、ここでは書きます。

ぼくらが泊まっていた宿舎は家族経営で、よく日焼けしたスポーティーな女将さんのお子さん2人(坊主頭の小学生、男兄弟)が、宿のあちこちを走り回っていたり、お風呂に入っていたり。それだけでアットホームな雰囲気がありました。

2日目の昼食を食べおえたとき、食堂にいた女将さんと、このチームの代表であるコーチとぼくとで、たまたま3人になりました。

女将さんは、軽快に話す。

「これまで、いろんなチームや学校がここに泊まってきたんですけどね、みなさんは、今年一番にいいチームだなと思います」

そのコーチは、おどろきつつ「いえいえ‥‥!」と謙遜する。

女将さんは、つづけて言う。

「私たちがよく見ているポイントは、『共同トイレのスリッパが揃っているかどうか』とか、『挨拶がちゃんとできるか』とか、いくつかあるんですが、けっこう大事だなと思うのが、『食事の残飯を出さない』なんですね。みなさんのチームは、小学生なのにチームみんなで協力して残さず全部食べてくれています。これは本当に素晴らしいことです。もっと驚いたのが、お風呂の桶なども綺麗に片付けられていて、思わずうちのスタッフに『あれ、スタッフが片付けたの?』と聞いたくらいでした。昨晩、ここの食堂でやっていたミーティングも高校生みたいで。『じゃあ、なんのために声かけするの?』という問いかけにも、必ず誰かが話す。さらに質問と答えがつづいていく。なかなかできないですよ。今年一番のチーム、です。」

コーチは、「ほんとうですか、正直とてもうれしいです」とお辞儀をしながら返す。

「残飯を出さないのは、みなさんがつくってくださるご飯がおいしいからです。ひとりずつに配膳してくださって、愛情がこもっているのが伝わってきます。片付けをする、スリッパをそろえる、そういった生活面を高学年たちが声かけをして引っ張るっていう文化も、これまでの先輩たちが紡いできたものです。あとは、こどもたちのご家庭のおかげです。のこりの合宿期間中も、気を緩めずにがんばります」

ちょうど合宿の折り返しのタイミングだったのですが、ふたりのやりとりを見ることができて、グッときました。

そして翌日、最終日。チェックアウトを済ませて、女将さんともお別れ。宿の前でぼくらのチームからお礼を伝えると、最後に女将さんが、こどもたちに向けて、こんなご挨拶をしてくれました。

「あのね、みんなが『ごはん、おいしいです〜!」って、たくさん言ってくれるから、こっちもね、もっともっと、おいしいものをつくろう!ってがんばれました。 そうやってね、たった1人のポジティブな声ひとつだけで、どんどんいろんな人に広がっていって、いつか世界を変えられることだってあるんです。未来をつくるのは君たちひとりひとりです。日本を、世界を変えていくんだって、今から決めて動けば、絶対にできるんです。みんなは、すばらしいチームだったと思います。ありがとうございました」

こどもたちの背中越しに女将さんを見ながら、ぼくは不意に涙が込み上げていました。ぼくは、涙目で女将さんに「ありがとうございました」と言って、恥ずかしくてコーヒーを買いに逃げました。

この宿舎はコロナ前に開業、ご夫婦は約25年前に長野県に移住して宿泊事業をゼロからスタートされたそうです。なんと女将さん、現役バリバリのアルペンスノーボーダーとのこと。ノースリーブを着用されていた際に、両方に脱臼の手術痕があるのも納得でした。カッコよかったなぁ、どこかで見つけて応援したいと思います。

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(たしかに、よしたに。)