NOTES

ケニア、1日目。「行けばわかるさ」

もう3年ほど愛用している腕時計がある。

小学生に「腕時計の絵を描いてみて」と言えば、ほとんどの子がこの腕時計のような絵を描くであろう極めてシンプルなデザイン。小ぶりなステンレス製が腕に馴染み、生活防水で雨の日も安心。いわゆる何百万円もするような超高級腕時計ではないのでキズも気にせず、こどもと遊ぶときにだって身につけられる。

そんなカラダの一部とも言えるその腕時計のモデルは、大学生の頃からの憧れだった。けれど、バイトもろくにせず部活に明け暮れていた学生には手が出ない値段で、当時、コンビニで腕時計雑誌を立ち読みしては「いつかは」と思っていた。

今から3年前。自分にとって大きな転機というか、ひとつの目標を成し遂げた出来事があった。そこで、妻に相談してみた。「あのさ、ずっとほしかった腕時計がモデルチェンジするんだって。値段もお高いけれど、なにより人気だからすぐに買えるもんでもないんだけどさ」「‥‥ほしいんでしょ?」 「(ゴクリ)」‥‥そうして人生最大のプレゼンを経て、お許しが出た。問題は、それをどうやって手に入れるか。ここで、人のつながりである。さまざまな人のご縁で、もしかしたら入手できるかもしれないとの情報が入った。そして友人に指示された通り、日本橋の某百貨店へ向かう。奥の部屋に通されて、店長が現れた。その手には神々しく光る腕時計‥‥「どうぞ」。英語で「探究者」と名付けられたその腕時計をついに手にすることができた。ほんとうに、いいタイミングだった(ちなみに2025年現在の定価は当時ぼくが買ったときより1.7倍も値上げしているからラッキーだった)。

どうしてケニアの話をするのに私的な腕時計の話をしたのかというと。ケニアに行くと周囲の人に伝えた際に、「危ないからその時計は日本に置いていったほうがいい」と言われた。たった1人だけ、「大丈夫ですよ」と言ってくれたのは、現地でコーディネートしてくれるケニア在住歴7年の日本人のみ。けれども、身近な人たちが「ケニアは危険だから」と言うので、ぼくは相棒を日本に置いていく決意をした。海に入るとき以外は外したことのない、他のどの海外に行くときにも、一度も置いていったことはなかったその腕時計を。

さぁ、いざケニアに着いてみて、どうだろう。「どうして置いてきちゃったんだ」と後悔する日々なのだ。ナイロビ、安心・安全そのものなのである。もちろん現地の知り合いと一緒にいるというのも大きいだろう。それを差し引いても、よっぽどのスラム街に行かなければ、穏和な国なのだ。ニューヨークに行ったときのほうが、街中にいるドラッグ中毒らしき人や、異様に筋肉モリモリの人がいて怖かった。ナイロビの人は、なんというか、ゆったりと落ち着いている。

行ったことのない人たちの「アフリカは危ない」という先入観のあるアドバイスをどうして信じてしまったのだろう。国も人も常に変わりつづけているもんね。なんでも、行ってみないとわからないモンだな。

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(たしかに、よしたに。)